傍にいるだけで・・・






桐皇学園と海常高校の練習試合が終わると、青峰はそのまま屋上で寝転がる。

その隣には恋人である黄瀬涼太の姿もあった。

練習試合のあと、普段なら学校に戻るのだが、戻っても帰るだけなので

そのまま現地解散という話がでていた。

黄瀬はもちろん、青峰としばらく一緒に居たかったのもあり、異論はなかった。

笠松は主将なので学校に戻らないといけないが、何人かは笠松についていった。

現地解散とはいえ、黄瀬は桐皇学園の屋上で青峰の隣でくつろぐ。

練習試合は引き分けで、黄瀬は隣で寝転がる青峰に悔しい思いを愚痴っていた。

「あ〜また青峰っちに敵わなかったっスよ〜」

「黄瀬にしちゃ、よく頑張ったほうだぜ。ま、俺にはまだ遠いけどよ」

青峰はくすっと笑みを浮かべる。

「褒めてくれるのはうれしいっスけど・・・やっぱ悔しいスよ」

黄瀬はぶ〜と口を尖がらせた。

ふと、黄瀬は思い出したようにカバンからガサゴソと何かを取り出した。

「青峰っち、誕生日おめでとうっス」

小さい袋を青峰に渡す。

青峰は体を起こし、それを受け取る。

「あ、そうか。今日は俺の誕生日か・・・サンキュ、黄瀬」

袋から出てきたのは英字のプレートがついたシルバーのチェーンだった。

「それ、俺とお揃いなんスよ」

黄瀬はテレながら、自分の首にかかっているチェーンを見せる。

【R】の英字のプレートがついている。

青峰には【D】の英字。

「名前のイニシャルをつけてもらったスよ」

青峰は受け取ったそれと黄瀬のそれを交互に見つめると、

「黄瀬。これやるから、お前のよこせ」

青峰は半ば強制的にそれを黄瀬の手に握らせた。

「え、どういう・・・」

聞き返すまもなく、青峰は黄瀬を引き寄せ、首筋に唇を落とす。

くすぐったい感触が黄瀬の体に伝わり、一瞬からだが固まる。

その隙に青峰は黄瀬からチェーンを外し、耳元で静かにささやいた。

「お前の名前の方がいいに決まってんだろ」

耳元で青峰の息と体温を感じ、黄瀬は急に体温が上がる。

「黄瀬」

青峰はそのまま、黄瀬をコンクリートの上に押し倒し、唇を重ねる。

「んん・・・」

いつもとは違う優しい口付けだった。

その青峰の手が黄瀬の胸元へと移動すると、黄瀬はその熱さから現実へと戻った。

「あ、青峰っち・・・」

「あぁ?」

途中で中断されて不機嫌なのか、青峰は短く返事をする。

「・・・ここじゃ嫌っスよ・・・」

「何でだ」

勢いと雰囲気があるとはいえ、さすがに屋上でするのは気が引ける。

誰がくるかわからない。

青峰は少し溜息を吐くと、そのまま黄瀬の胸に顔をうずめた。

「・・・仕方ねーな・・・」

残念そうに青峰はそうつぶやく。

その素直な態度に黄瀬は驚いた。

普段なら、そのまま自分の欲のまますることが多いのだが・・・。

「今日はどうしたんスか?」

そう聞き返してみたが、返事は返ってこない。

しばらくして、

「黄瀬」

顔を上げずに青峰は黄瀬の体に重なったまま、名前を呼んだ。

「なんスか?」

「・・・今から俺の家に来い」

そういった。

黄瀬はこれは強制だと思いつつ、笑みをこぼす。

「・・・いいスけど、明日学校あるっスよ」

「休めばいいだろ」

何だか現実になりそうだと黄瀬は思いながら、

一瞬、笠松の顔が脳裏をよぎる。

「そうスね」

今日は大切な恋人の誕生日だから、一緒にいたいし。

黄瀬はそう思った。

互いの手には互いのイニシャルのついたチェーンが握られていた。

「青峰っち・・・」

好きっスよ。

黄瀬はつぶやくと、青峰に今度は自分からキスをした。














翌日。

「・・・痛いス・・・」

青峰の部屋のベッドで黄瀬は体の痛みを感じていた。

隣で寝る青峰が恨めしい。

結局、青峰の家に泊まった上に今日は学校を休む羽目になりそうだ。

黄瀬ははぁ〜と溜息をつく。

が、体が痛くて動きたくない。

もう少し寝れば、よくなるだろう。

青峰を起こさないように、布団にもぐる。

「・・・まったく何で好きになったんスかね?」

青峰の首にかかるチェーンを見て、黄瀬は笑みをこぼした。





その後、しばらくして青峰は目が覚めた。

隣にはぐっすり寝ている黄瀬の姿がある。

家に帰った青峰はそのまま黄瀬を部屋で抱いた。

黄瀬の体温を感じながら、自らの熱に浮かされ、夢中になった。

そんなときは決まって黄瀬が好きなんだと思い知らされる。

自分の方が黄瀬を好き過ぎて、どうしようもないくらいになっているということも。

こうして、傍にいて、黄瀬の体温を感じていたいとも。

黄瀬の安らかな顔を見ながら、青峰は自嘲する。

「・・・黄瀬・・・好きだぜ」

青峰はそっと、頬にキスを落とした。

そして、そのまま布団の中で、愛しい人の体温を再び感じながら、眠りについた。









おわり